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小説「CHAPPY」 - 第二次世界大戦を生き延びた日本人

せっかくだから  NZの小説を読みたいという方、「CHAPPY」はいかがでしょうか。フィクションですが日本人を題材にしたこの小説は、去年NZ国内最高峰のOCKHAM 文学賞の最終選考に残りました。優れた小説でありながらシンプルな文体で書かれており、お薦めの一冊です。

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この小説では、イギリス人の若者がマオリのルーツをたどるという設定で、謎に包まれた祖父の真実が明かれされていきます。この祖父が、本のタイトルの Chappy こと日本人男性になります。

Chappyは、NZに密航して餓死寸前のところを運よく助けられ、マオリの集落で介抱されます。言葉を覚えて暮らしにも馴れ、集落の一員として暮らすChappy でしたが、ある日、日本が真珠湾攻撃をしたというニュースが届くと、忽然と姿をくらまします。マオリの集落の暮らしぶりが生き生きと描かれている中で、Chappy が竹細工の術を用いて籠を作り、人々を感心させる場面など、日本人の心理や文化も上手く表現されていて、共鳴できる所が多いかと思います。

この本の著者 Patricia Grace 女史は、ウェリントン在住です。これまで多数の小説や絵本を執筆し、2008年に、ノーベル平和賞に次いで世界的に権威があるノイシュタット国際文学賞を受賞しました。また執筆活動だけではなく、マオリのコミュニティ活動にも貢献し、イギリス王室より数々の勲章を授かっています。2006年に Dame(大英勲章第1位および第2位を授与された女性に対する尊称)を与えられましたが、これは本人の意思で受諾されませんでした。

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小説はフィクションですが、実は野田朝次郎という実在の人物が Chappyのモデルとなっています。1880年、当時八歳の朝次郎は、酔った船大工の父親にイギリス船内に置き去りにされ、そのまま長崎港を後にしました。それから10年間世界を周り、1890年にNZの南島のブラフに到着、北島のワイカト地方で農園業で財を成し、マオリ女性と結婚し三男二女を設けています。朝次郎はNZに帰化した最初の日本人になります。小説とは異なり、第二次世界大戦中は、高齢の為1942年に亡くなる迄自宅で過ごすことを許されましたが、次男は捕虜として収容されました。1990年に朝次郎の孫たちが、朝次郎生誕の熊本の天草と長崎を訪れ、野田家の人々と対面、その後も交流が続いているようです。文字通り「事実は小説より奇なり」の人生を送った朝次郎でした。

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記者プロフィール

探求者

探求者

NZ滞在20年。

家族とともにWellington在住。

NZの自然、マオリ文化、

芸術をこよなく愛し徒然なるままに探求中。

ブログ : 白くたなびく雲の下で!
http://aoteaora.blog.fc2.com

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