患者さんが自身の記録にがアクセスできるようにする『OpenNotes』という国際的な運動があります。
https://www.opennotes.org/notes-you/
これは患者さんが自分に関する医療記録にアクセスできるシステムで、ニュージーランドでは『Patient Portal ペイシャント ポータル』と呼ばれています。
現在では世界中で3300万以上の人が、自分に関する医療記録にアクセスできるようになったそうですが、日本ではまだあまり進んでいませんね。
今回はこの『ペイシャントポータル』について説明しますね。「ペイシャントポータル」でできるのは、自分のカルテへのアクセスだけじゃないんです。
ニュージーランドでの『ペイシャント ポータル』の現状
日本の「カルテ開示」は、まだ「患者さんが病院や医院にカルテ開示を請求して、請求した分を手に入れられる」という段階のようです。
これに較べると、ニュージーランドはかなり進んでいます。
2019年3月の時点で、620のGPクリニックが『ペイシャント ポータル』を導入しており、85万人以上のニュージーランド人が使っている、ということです。
このNZ政府の資料を見ると、少しずつ『ペイシャント ポータル 』が広まっていることがわかります。
https://www.health.govt.nz/our-work/digital-health/other-digital-health-initiatives/patient-portals
このレポートにはもっと詳しい資料も載っているので、興味がある方はご覧ください。
(下の図表は、上記のレポートから引用。)
リンクが切れていたら”Ministery of health””NZ””patient portal”でググってもらえると、最新のページが見つかるはずです。)
『ペイシャントポータル』で何ができる?
「ペイシャントポータル 」に登録していると、
- 薬のリピートを頼む
- 診察の予約(私のクリニックは翌日分から予約できます。)
- 自分のカルテを見る
- 自分の血液検査の結果を見る(GPがチェックしてサインアウトしたものだけ)
- 自分の診断名や服薬している薬を見る
- 予防接種や検診の記録を見る
- 予定になっている検査や検診などの通知が受ける
- GPや看護婦とEメールのやり取りができる
など、いろいろなことがオンラインで可能になります。
『ペイシャントポータル』を使ってみたいのだけれど、どうすればいい?
まず、かかりつけのGPクリニックが『ペイシャント ポータル』を導入しているかどうかチェックしてください。
『ペイシャント ポータル』を使っているクリニックなら、受付で『ペイシャント ポータル』に登録したい旨を伝えて下さい。
通常は利用規約にサインし、IDを見せると登録手続きをしてくれます。
自分のパスワードなども最終的に決めないといけないので、しっかり手続きについて訊いてくださいね。
そのクリニックが、どのオンラインカルテシステムを使っているかによって、『ペイシャント ポータル』のサイト(アプリ)の名前は『Managemyhealth』、『 ConnectMed』、 『Mypractice』、『Health365』など、異なります。
基本的にはどこのサイト(アプリ)もほぼ同じ機能があります。
GPの立場から『Patient Portal 』をどう思うか(私の個人的感想)
利点
患者さんとの連絡の時間短縮
自分が心配な患者さんには、私の空き時間の数分にメールを送り、また時間があるときに返事が来ているかチェックすれば良いので、かなり時間の短縮になります。
メールのやりとりはすべて、患者さんのカルテに記録が残るので、電話のように、話をした後にカルテにどんな話をしたか書き込む手間も省けます。
これが電話だと、少なくとも5分くらいは私の時間に余裕をみておかないと、他の業務が遅れてしまうことがあります。
電話で長話を始める患者さんだと、なかなか電話が切れず困ります。笑
欠点
問題点はいくつかあります。
GPがメールの対応に、時間が取られる
時々、患者さんからのメールが10通とか一度に来ていると、それに返答するだけで、かなり時間がかかることがあります。
(クリニックによっては、GPがメールの応答やペーパーワークする時間の給料も払ってくれるところがありますが、私の働くクリニックは払ってくれません。: (
患者さんが非現実的な期待をすることがある
患者さんの中には、メールを書いたらすぐにGPが読んで返事を書くことを期待していたり、かなり緊急なことを金曜日の午後にメールしてきたりする人がいます。
メールは、1−2日中にGPに読まれない可能性があります。
急ぎの件は、直接クリニックに電話しましょう。
思わしくない方法で、患者さんが重大な検査結果を知る可能性がある
検査の結果が、かなり重要な意味合いがある際に、問題が起こることがあります。
例えば検査の結果、診断がガンらしいとか、ガンの再発らしい、とかいう時に、GPの側で気をつけないと、患者さんが、テストをオーダーした病院の専門医に検査の結果を聞きに行く前に、『ペイシャント ポータル』を通して結果を知ってしまうことがあります。
ニュージーランドでは、基本的にすべての患者さんに、医師は検査の結果をその通り伝えますので、これは、患者さんに告知するか、しないかということではありません。
(患者さんが「結果を絶対知りたくない」という意思表示を事前にしていれば別ですが。)
ただ、ガンとか再発とかいう重大な結果を、コンピューター画面上で、医師から何の説明も無しに患者さんが見て知ることになるのは、最も良い方法だとは思いません。
システム上はGPが、検査結果をチェックした後に、その患者さんの”ファイル”に検査結果を保存して初めて、患者さんは『Patient Portal』を使って結果が見えるようになります。
つまり、GPが気をつけ、患者さんのファイルに結果を保存せずに、すべての患者さんの新しい検査結果が入ってくるボックスに、とりあえず入れたままにしておけば良いのですが、ついつい流れ作業で「ファイルに保存」をクリックしてしまうことがあります。
患者さん側からみれば、『ペイシャントポータル』は利点の方が多いと思いますので、ぜひ活用してください。
『ペイシャントポータル』Q &A
『ペイシャントポータル』は無料なの?
私のクリニックでは登録は無料です。
上に書いたように、メールを対応するのにGPの時間が取られるために、有料にしているクリニックもあると思います。
登録が無料でも、何らかのサービスを受けた場合は、そのクリニックによりいくらチャージされるか決まっているので、かかりつけのクリニックにおたずねください。
『ペイシャント ポータル』はGPや看護婦さんにメールが送れるということですが、どんなメールを送ってもいいの?診断書とかもお願いしていいの?
そのクリニックにより規則があると思うので、ご自分のクリニックに直接訊いていただくのがもっとも良いと思います。
Eメールによる診療をしているクリニックもあるかもしれません。(もちろん有料)
私の働くクリニックは、原則的にメールの使用は、すでにクリニックでの診察で話し合ったことのフォローアップに限っています。
WINZやACCの診断書は、初めての診断書はもちろんですが、2回目以降のものでも、実際にクリニックで診察をしないと、発行できません。
メールを送って、これらの診断書の更新をお願いしないようにしてください。
(この規則は普通は例外はないのですが、直接かかりつけのクリニックで確認していただくのが一番良いです)
うちの子供も『ペイシャント ポータル』に登録できるの?親が管理してもいいの?
『ペイシャントポータル』は16歳になったら、自分で登録することができます。
登録する時は、その本人が来て、IDを提出したり署名したりしないといけないので、親だからといって勝手に子供のためにセットアップし、子供のカルテを見ることはできません。
ただ16歳の子供が合意して、親にパスワードを教える、とかいうのは、その16歳の子供が自分の責任で行うことなので、クリニックは関与しません。
じゃあ、うちのおじいちゃんはどうなの?インターネットは使えないんだけれど。
基本的にインターネットが使えない(または使わない)のであれば、『ペイシャントポータル』は使えません。
世代が上の方は、私が勧めても「私はインターネットしないから」という方が多いです。
もちろん今まで通り、電話を使ってクリニックに連絡していただければ大丈夫ですよ。
もしも患者さんご本人が、「GPとのやりとりを、家族の誰かに代わりにやってほしい」ということであれば、その旨をクリアにして、できれば書面でクリニックに示すと良いでしょう。
その条件で患者さんの『ペイシャント ポータル』をセットアップして、メールで家族の方とやりとりするのも(患者さんの同意があるか、Power of Attorneyが有効になっていれば)可能です。
おわりに
『ペイシャントポータル』の目的の一つは、患者さんが自分の健康に、興味と責任を持つことです。
GP・看護婦と患者さんがチームになって、患者さんが自分の健康管理をする手助けをする、というのが理想の姿であるので、ペイシャントポータルによって、みなさんが更にご自分の健康に気を使うようになれば良いなと思います。
もしも質問がありましたら、私のブログから、お気軽にメールを送ってくださいね。
次回は、ニュージーランドでの高齢者医療についてのお話しです。
- 野田のりこ (Noriko Noda)
- 日本で外科医として勤務後、2002年にNZへ移住。
- NZでも医師免許を取得。現在General Practice 専門医として働く。
- 音楽やクラフトが趣味。