日本人が住みたい国のリストに載る国、ニュージーランド。
美しい自然、おおらかな人々。そんなイメージを持っている方は多いと思います。
でもいじめや、ストレス、うつ病などが問題になっているのは、この国でも同じです。
実は、みなさんの想像よりも大きな問題なのです。
今回はニュージーランドのダークサイドを紹介します。
ニュージーランドでのうつ病の状況
世界のどの国でも、『うつ病』で辛い思いをしている人はいます。
ニュージーランドも例外でありません。
WHOが2017年に出したレポートを見てみると、ニュージーランドは、日本以上にうつ病の患者さんの割合が多い、と報告されています。
人口当たりのうつ病の率は、日本では4.1%、ニュージーランドでは5.4%となっています。
(患者さんの数は、医師が診断をつけた人の統計をとっているのでしょうから、うつ病でも医者を受診しない人がいる事を考えると、完全に正確な値ではないでしょうが。)
若い世代のいじめと自殺
精神的に病むのは、もちろん大人だけではありません。
いじめ
The Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD)と言う団体があります。
この団体は、所属する36カ国とその他の国の15歳の子供にアンケートをとったまとめであるProgramme for International Student Assessment (Pisa) というレポートを定期的に出しています。
2015年のPisaによると、アンケート結果が得られた51ヶ国の中で、ニュージーランドは何と2番目にいじめの経験を訴える子供の割合が高かったのです。(一番はLatriaのいう東欧の国でした。)
私の予想に反して、日本ではいじめを訴える子供の割合は少なかったです。
こちらで暮らしていると(ニュージーランドの子供達は勉強に追われずに、楽しい生活を送っているなあ)なんて思っていたので、この結果は本当に驚きでした。
ソーシャルメディアを使ったいじめ、いわゆるcyber bullyingも、ニュージーランドでは大きな問題です。
自殺
”いじめ”を受けた若者達が、精神的にストレスを感じることは、容易に予想されます。
統計的に見ると、ニュージーランドの若者の自殺は世界の中でも非常に高いです。
(もちろん、すべての自殺がいじめと関連してはいないと思いますが。)
私の住む街で、近年若い人たち(主にティーンエイジャー)のいじめが関与した自殺が相次ぎました。
その対策として、私の街のPrimary health organization (PHO)は若者を対象にしたyouth mental health teamを作り、GPなどの紹介、または患者自身が連絡することで無料でカウンセリングを受けられるようになりました。
また、ほとんどの高校には学校と契約しているカウンセラーがいて、学生が予約をして、無料でカウンセリングが受けられるようになっています。
これ以外にも、ニュージーランドでは国を挙げていろいろ努力がされていますが、現在のところ若者の自殺率は減っていません。
この世の中で、精神的に打ちのめされずに生きていくのに大切な事は?
ストレスの原因になる事に欠かないこの世の中で、精神的に打ちのめされずに生きていくには
- 必要な時は、早めに周りに援助を求めること
- 自分自身をトレーニングして、ストレスを感じにくい”打たれ強い”自分を作ること
が大切だと思います。
周りに援助を求める
まず、信頼のできる家族、友達、同僚に話してみましょう。
GPがいる方は、予約を取って話をしに行きましょう。
私の働くクリニックには「Health Improvement Practitioner(HIP)」というカウンセラーが働いています。基本はGPや看護師が必要だと思ったら、患者さんを HIPに紹介する、と言うシステムです。
これは試験的な試みなので、まだニュージーランドでHIPがいるGPクリニックは限られています。
外部のカウンセラーに紹介する必要なく、同じクリニックの中で、無料で30分/回ほどのセッションをHIPから受けられるというのは、患者さんにとっても、GPにとってもとてもありがたいシステムです。
もしご自分のかかりつけのGPクリニックにHIPがいる場合は、利用してみる事をお勧めします。
HIPは、いかにストレスを処理するか、いかにresilientになるか、という事に重点をおいてあなたの状況にあった指導をしてくれます。
あなたのかかりつけがHIPのいないGPクリニックでも、深刻な状態になる前に是非GPに相談してくださいね。
また、ニュージーランドでは多くのウェブサイトや電話のヘルプラインがあり、必要な人がすぐアクセスできるようになっています。(リンクは後述。)
政府や学校、多くの職場も、カウンセリングを無料で受けられるようなシステムを作っています。
自分をトレーニングして”打たれ強く”する
プライマリーケアを担当するGPの私としては、
「ストレスに打ちのめされる」前に、
「落ち込んで朝起きるのも億劫になる」前に、
「お酒やドラッグを使って、沈んだ気持ちを一時的に押さえ込むようになる」前に、
自分をトレーニングする事の重要性を強調したいと思います。
「精神的に参った時」に受けるカウンセリングの方法の中には、「精神的に参らないように」自分をトレーニングするのに役立つ方法もあります。
mindfulnessや認知行動療法、acceptance and commitment therapy がそのようなものです。それを習慣にして実行する事で、ストレスを感じにくい、”打たれ強い”自分を作る事ができるのです。
mindfulnessのアプリも数多くありますし、オンラインで認知行動療法が無料でできるサイトもいくつかあります。
よくわからない方は、是非GPに尋ねてみてください。
まとめと役立ちリンク
ニュージーランドのシステムで良い事の一つは、精神的な問題も他の健康の問題と同じく、GPに気軽に相談が可能な事。
日本のように「メンタルクリニックを受診するのに、周りの目が気になる」なんて事を感じる必要もありません。
GPに薬を勧められる事もあるかもしれません。ご自分の希望を述べつつ、GPと話し合って、あなたの納得のいく治療計画を立ててもらってください。
残念なことですが、この世の中からいじめが完全になくなることはないでしょうし、いくら自分を鍛え、周りのサポートを得ても、ストレスをゼロにしたり、うつ病を無くすることも不可能だと思います。
そんな中で、日本に較べ充実しているニュージーランドのサポートシステムを上手に使って、みなさんが精神的にも健康な状態を保てれば、と思います。
GPもお手伝いします。
電話やテキストによるサポート
以下に、幾つか使えるリンクを載せておきます。
- Healthline
- https://www.health.govt.nz/your-health/services-and-support/health-care-services/healthline
- 0800 611 116
- 1737
- https://1737.org.nz/
- 「1737」に電話をするかテキストを送ると、カウンセラーに常時つながります。
- Lifeline
- https://www.lifeline.org.nz/services/lifeline-helpline
- 0800 543 354 か 09 522 2999
- Youthline
- https://www.youthline.co.nz/
- 0800 376 633
- Depression Helpline
- https://depression.org.nz/contact-us/
- 0800 111 757
おすすめアプリとウェブサイト
メンタルヘルスのためのアプリも数たくさんありますが、これはうちのHIPのイチオシです。
- Smiling Mind
- https://www.smilingmind.com.au/
- 無料のアプリで、子供から大人まで使えます。自分のメンタルヘルスは大丈夫と思っている方でも、一度見てみる価値があると思いますよ。
特にお子さんのメンタルヘルスが心配な方には、役に立つと思います。 - Just a thought
- https://www.justathought.co.nz/
- オーストラリアのサイトを参考にニュージーランドで作られた行動認知療法のサイト。
最近(2019年)開かれたばかりのサイトです。
次回はついに最終回となります
私が考えるニュージーランドの医療の問題点を語ります。
ご感想・ご質問は、私のブログ https://nzdoctor.net から送ってくださると嬉しいです。
- 野田のりこ (Noriko Noda)
- 日本で外科医として勤務後、2002年にNZへ移住。
- NZでも医師免許を取得。現在General Practice 専門医として働く。
- 音楽やクラフトが趣味。