星空を観光資源に発展していくテカポの今後を見続けたいです。
ニュージーランドで日本人観光客から今、最も注目されているデスティネーションといえるのが南島中央部にある小さな湖畔の町テカポ。多くの旅行者をひきつけてやまないその魅力は“世界一美しい”と評される星空にあり、ユネスコの世界遺産に登録しようという活動も行われています。そんなテカポの星空をカメラに収め、発信しているのが現地在住の日本人写真家Maki Yanagimachiさん。天体専門のアストロフォトグラファーとして活躍するMakiさんに、お話を伺いました。
自然を撮るためにニュージーランドへ
南島のアオラキ/マウント・クック近くに位置するテカポは、世界最南端の天文台を有し、国際ダークスカイ協会から保護区としてゴールドステータスの認定を受けたほど天体観測に適した町。ミルキーブルーのテカポ湖や、結婚式場としても人気が高い善き羊飼いの教会といった観光名所もあり、旅行会社HISの投票キャンペーンで女性がプロポーズされたい場所の第1位に選ばれるなど、ニュージーランド国内で今、最も日本人観光客から注目を集めているデスティネーションといえます。
2009年よりそんなテカポに暮らし、“世界一美しい星空”を撮り続けているのが日本人写真家のMaki Yanagimatiさん。現地の星空観測ツアー会社Earth & Skyに所属するアストログラファー(天体写真家)です。アマチュアカメラマンだった祖父の影響で写真に興味を持ち、子供の頃から将来は写真家になろうと考えていたそうです。
「10歳の時、祖父にコンパクトカメラを買ってもらったのをきっかけに写真を撮り始めました。最初は風景や友達を被写体にしていましたね。当時から漠然と写真の道に進もうと思っていましたが17歳の頃に祖父が亡くなり、本格的に写真家になろうと決意しました。写真学校を卒業してファッションや広告写真を扱うスタジオに勤務しましたが、海外生活を体験してみたいという想いもあったのでワーキングホリデーでニュージーランドへやってきました」
渡航先にニュージーランドを選んだ理由は、海外で自然をテーマにした写真が撮りたかったから。Makiさんは自然写真家の星野道夫さんのファンで、自らも雄大な自然をモチーフにした作品を手がけたいと考えていたのです。ニュージーランドへ渡ったMakiさんはまずオークランドで語学学校に通い、バックパッカーズで働いた後、テカポにある日本料理レストラン「湖畔」で仕事を見つけてテカポに移り住みました。
「ニュージーランドに来る前からテカポのことは知っていました。星に興味があったこともあり、いろんな人に“あなたは絶対にテカポへ行ったほうがいいよ”とアドバイスされたのです。当初はテカポや南島を旅して回って写真を撮り溜め、日本のどこかの媒体で発表できたらいいなと考えていましたが、たまたま湖畔レストランで求人をしていたのを発見してテカポに移りました」
テカポに移り住みアストロフォトグラファーに
湖畔レストランで働き出して3ヶ月ほど経った頃、Makiさんがフォトグラファーであり星が好きだということを知ったEarth & Skyからジョブオファーがありました。日本語星空ガイドおよびマウント・ジョンの山頂にある同社経営のアストロカフェでバリスタとなったMakiさん。間もなく写真の業務も任されるようになり、入社して1年後には同社所属のアストロフォトグラファーとして正式採用が決まりました。
「現在の主な業務はマウント・ジョン天文台での星空観測ツアー中に参加されているお客様のカメラを使って星空の写真を撮ることです。自分で撮影したいという方の場合はそのアシストをします。日本語と英語のほか、中国語にも対応しています。ここのところ中国人のお客様が多くなって、特に2月のチャイニーズニューイヤーの頃はたくさんいらっしゃいます」
そのほか、メディアの取材に対応したり、撮影協力をすることもたびたびあるといいます。ニュージーランド国内メディアではつい先頃、TV3にオーロラの映像を提供したそう。ほかにもTV1が番組の前後に流す同社のロゴの背景にMakiさんが撮った星空のタイムラプスが使われたり、イギリスのテレビ局BBCとやりとりしたこともあるそうです。日本のメディアでは、現在テレビでオンエアされている東急不動産「BRANZ」のCMにMakiさんが撮影した星空の映像が使用されています。
https://www.youtube.com/watch?v=qEJi91FL0Ns
「CMロケの際は日本からいらしたもう一人のカメラマンさんとキャンパーバンで広大なファームのど真ん中まで行って一緒に撮影したんです。特別な許可を取って入った場所で、周りに誰もいなくてすごく静かで、頭上に星空だけが広がっていて、とても印象に残っています」
町の発展と星空の環境保護の両立が課題
星空に魅せられ、導かれるようにテカポにやってきたMakiさん。コミュニティが小さく住民全員がほぼ知り合いのような町で、Makiさんが生まれ育った東京とは大違いですが、近隣の人々と家族のようなつきあいができるテカポを気に入っているそうです。国際的にも注目されるテカポの星空の魅力とはどのようなものなのでしょうか。
「テカポの星空の魅力は、南半球でしか見られない範囲の星が1年中沈まないこと。例えば南十字星は南半球に行けばいつでも見られるというイメージがあるかもしれませんが、緯度の関係でエリアによっては見られない時期もあるんです。そしてニュージーランドが冬を迎える6・7月は、天の川の中心部分が頭の真上にくるので本当に美しい。日本では地平線の少し上くらいまでしか上がらないので、これはすごい利点です。冬のテカポはかなり寒いけど、星はとてもキレイです。オーロラが出現することもポイントですね」
© Maki Yanagimachi
昨年あたりからテカポが日本のメディアで次々と紹介され、この町を訪れる日本人観光客の数はうなぎ上りに増加しています。日本人以外の訪問者も急増していることから宿泊施設など旅行者向けのサービスの充実が迫られ、小さな町は急速に発展しつつあります。町の経済が潤う反面、最大の観光資源である星空をどのように守っていくかが今後の課題になるとMakiさんは話します。
「星は暗ければ暗いほどよく見えるので、街灯やお店、住宅からの明かりが強いと天体観測に支障が出てしまいます。Earth & Skyで働いて星空保護の観点や活動に関わっていけるのは私の中で非常に重要なこと。町の発展と星空の保護をどのように両立していけるのか、これからもその過程を見続けたいです」
また、今後はテカポに留まらず、世界各地で星空を撮ろうと考えているとか。
「今年の9月はアイスランドとノルウェーに行く予定です。テカポではオーロラの写真を撮っていますが、北半球のオーロラも撮影してみたいんです」
カメラを通してテカポの星空の素晴らしさを世界に発信し続けるMakiさん。彼女の作品をきっかけに、これからもテカポを訪れる人々が増えそうです。
Maki Yanagimachi
まき・やなぎまち●東京都出身。
アマチュア写真家だった祖父の影響で10歳から写真を始める。写真学校を卒業後、スタジオ勤務を経てワーキングホリデーでニュージーランドへ。2009年に南島テカポにある星空観測ツアー会社Earth & Skyで星空ガイドおよび同社が経営するアストロカフェでバリスタとして働いた後、天体撮影専門のアストロフォトグラファーとして正式採用された。
自身が手がけたスチール作品やタイムラプスはニュージーランド航空ウェブサイト、ニュージーランドのテレビ局TV1、TV3、ニュージーランド・ヘラルド紙の系列ウェブサイトStuff、イギリスのテレビ局BBC、日本のテレビコマーシャルなどさまざまなメディアに登場している。2013年6月に東京・新宿のコニカミノルタ・プラザで特別企画展『星空を世界遺産に~ニュージーランド テカポ展~』も開催された。
Earth & Sky www.earthandskynz.com