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WTV/さくらTV創設者 関川マサ

WTV/さくらTV創設者 関川マサ

波及効果が抜群のニュージーランドで日本の魅力をアピールしたい。

まだ海外へ出る日本人が少なかった1970年代初頭にニュージーランドへ渡った関川マサさん。放送局の設立や南半球初の岩盤浴スパを開くなど革新的なビジネスを手掛け、この国で自分らしく暮らしながら、日本人コミュニティの代表としても幅広い活動を続けている。ニュージーランドで生活する魅力と、長く日本を離れているからこそ実感できる日本の素晴らしさについてお話しいただいた。

ニュージーランドで日本語テレビ番組の放送を手掛ける

移民国家であるニュージーランド。人口450万人の小さな島国にさまざまなバッググラウンドを持つ人々が暮らし、それぞれのコミュニティや文化、また多彩な言語によるサービスが存在している。新潟県上越市出身の関川マサさんが創設したテレビ番組プロバイダー「WTV(ワールドTV)」もそのひとつ。衛星放送10チャンネル、地デジ2チャンネルで日本語のほか中国語や韓国語のテレビ番組を放送している。1999年に立ち上げ、2000年6月1日よりテレビ放送をスタートさせたという。

「“日本人に日本の番組を楽しんでほしい”という想いでWTVを設立しましたが、それまで全くテレビの仕事をしたことがありませんでした。始めてみるとこれが本当に大変で、コンテンツ(テレビ番組)は各テレビ局が所有しているという単純なものではなく、映像制作会社や出演タレントのプロモーター、広告代理店、芸能プロダクションなど多くの組織が関わっているから複雑なんです。それに日本はキチンとしている分、保守的なのでニュージーランドみたいにやりたいことをぱっと行動に移して実行するということがなかなか難しい。相当な熱意がないとテレビの仕事はできないし、放送の許可を得るまで何年もかかりましたし、今でも苦労しています」

現在WTVで放送しているNHKワールドプレミアムも許可が下りるまでに3年以上を費やしたという。NHK本局と交渉し、当時はメールではなくFAXでのやりとりだったそうだが、そのFAX用紙が1メートル以上の高さに積みあがるほどのやり取りを重ねたとか。

「陳情のため、自費で何度も日本へ通いました。すごく時間がかかったし、困難でしたがとにかく日本人に日本の番組を魅せたい一心でやり遂げました」

馬の尻尾ではなく豚の頭になりたい

関川さんがニュージーランドへやってきたのは1971年8月。その前年の1970年に「世界を見てみたい」と考え、オーストラリアへ渡ったことがきっかけだった。

「その頃は海外へ行く日本人はほとんどいなかったので渡航先の選択肢もあまりなかったのですが、“日本人が少ない国に行こう”と思ってオーストラリアに決めたんです。船でブリスベンに着いてそこでしばらく過ごした後、ヒッチハイクでシドニー、キャンベラ、メルボルン、タスマニアのホバートまで行ったらあまりに長くオーストラリアにいすぎたために不法滞在を摘発されてしまったんです。そして72時間以内に国外退去をしなくてはならなくなり、慌てて船に飛び乗って、一番安く行けたオークランドに到着した。だからニュージーランドに行こうと思って来たわけではないんです」

 当時のニュージーランドは景気がよくて仕事がふんだんにあった上、ワークビザなどの厳しい条件も存在しなかった。関川さんはオークランドに着いた翌々日にはすでにホテルで皿洗いの職に就いたそうだ。

「日本を出る前にお世話になり、多大な影響を受けた勅使河原さんという先輩がいるのですが、その方に常々“関川くん、馬の尻尾ではなく豚の頭になりなさい”と言われていたんです。つまり“鶏口となるも牛後となるなかれ”ということで、その言葉がいつも心に残っていてサラリーマンではない生き方をしようと決めていた。ニュージーランドは人目を気にせず、自由にやりたいことがやれる国。この国に来たからこそ豚の頭になることができたと思います」

 1970年代に260万ほどだったニュージーランドの人口は、現在およそ450万人。人口急増の理由となった移民の増加がニュージーランドの暮らしを変えたことを関川さんも実感しているという。

「レストランが週末も営業するようになったり、ガソリンスタンドが24時間営業になるなど細かい変化はたくさんあります。でも街並み自体は新しいビルが増えたくらいでそんなに変わっていない。変わったのはやはり移民、とくにアジア人が圧倒的に増加しこと。昔は優雅で生活にもゆとりがあったけど今はもっとあくせくしている感じ。ただその分、エネルギッシュだし、ビジネスも活気がある。そのどちらがいいか、個人が判断できるのも移民の国だからこそですよね。この国に魅力を感じなくなったら離れることだってできる。その点が日本にいる日本人とは違う最大のメリットで、自分の人生を何のしがらみもなく、自分の思うままに決められるのが素晴らしいと思います」

日本のよさをもっと多くの人に知ってほしい

ニュージーランドで自分らしい生き方を見つけた関川さんだが、長年日本を離れているからこそ日本のよさも感じていると話す。日本人会の会長を務めた経験もあり、さまざまな方法で日本の素晴らしさをニュージーランドの人々に伝えるべく尽力している。

「私は自分のことを外交官よりも外交官だと考えています。例えば知り合いのキウィが海外旅行の計画を立てているとなったら必ず日本を薦めますよ。オーストラリアへ行こうとしていた人に“せっかく海外へ行くのに同じミートパイを食べて同じような顔を見たって面白くないでしょ。日本だったら言葉も違うし食べ物だって見たことないものが山ほどあるよ”って言いましたよ。実際にそれで日本に行った人もたくさんいて、帰ってきたらみんな“アメージングカントリーだ”って口を揃えて感激して日本のファンになってくれる。嬉しいですよね」

関川さんに日本のどこに魅力を感じるかと尋ねると「第一に挙げたいのは文化ですね」と答えた。ニュージーランドより少し大きい程度の小国でありながら北海道と沖縄とでは気候も言葉も食べ物も異なるなど、一国一文化ではなく全国各地に独自の風習や文化が根付いていることが素晴らしいと語る。

「日本のことを英語で伝えるテレビ番組を放送するさくらTVは“ニュージーランドの人々にもっと日本ことを知ってほしい”と考えて設立したんです。ただしさくらTVはビジネスとしてはどんなに成功したって儲からないですよ。何しろ人口450万人なのでたかが知れている。だけどこの国は移民の国だから、その450万人が世界中に里帰りするでしょう。イギリスに帰った人はイギリスで日本のことを話してくれる。つまり波及効果が抜群の国なんです。コンテンツホルダーの人たちにはその辺を理解してほしい。たかが450万人の国に放送するだけではない、その何倍もの広がりがあるんだってことを」

さらに、ここ1年ほどはオークランド動物園内にあった日本庭園の再建にも力を注いでいる。さまざまなコミュニティの協力を得てウェスタン・スプリングスに再び造園されることになった日本庭園は、オークランドと福岡の姉妹都市締結30周年となる2016年の完成を目指して間もなく工事をスタートさせる予定だ。

「日本が素晴らしい国であることをアピールすることは今後もずっと続けていきたい。これは私だけではなく、日本人全員がするべきだと思う。ワーホリで来ている若い世代もぜひ一人ひとりが広報大使になってほしい。海外で生活していても故郷は日本なのだから、そこは捨てられないでしょう。でなければただのアジア人になってしまいます」

ニュージーランドの大手新聞ヘラルド紙を読んでいても、近年はChinaやEUばかりで「Japan」という言葉を見かけないのが残念と言う関川さん。世界をリードする経済国としてではなく、素晴らしい国としての日本をもう一度ワールドマップに載せるのが関川さんの夢。遠く離れたニュージーランドから発信し続ける応援活動が、日本に元気を与えてくれそうだ。

Masa Sekikawa

せきかわ・まさ●新潟県上越市出身。

1970年に「海外を見たい」とオーストラリアに渡り、1971年8月よりニュージーランド在住。さまざまな仕事に就いた後、1999年に「ニュージーランド在住の日本人に日本のテレビ番組を楽しんでほしい」との想いからWTV(ワールドTV)を設立。2000年6月1日より放送を開始し、現在日本のほか、中国や韓国の番組など衛星10チャンネル、地デジ2チャンネルを放送中。

2006年、「ニュージーランド人に日本のことを知ってほしい」と考え、日本について英語で紹介するNHKワールドを主に放送するさくらTVを設立。2010年には南半球初の岩盤浴スパをオークランドにオープン。日本人会の会長を務めた経験もあり、最近はオークランドのウェスタン・スプリングスに再建予定の福岡庭園の建造計画に尽力するなど、ニュージーランドで日本の魅力を広く伝えるべく活動している。

WTV http://www.wtv.co.nz/jtv.html
さくらTV www.sakuratv.com
bliss岩盤浴 http://www.blissreflexology.com/stones