生活に根差した問題を、話し合い、助け合っていけるコミュニティを作っていきたいと考えています。
ニュージーランド最大の都市オークランドに在住日本人で構成されているコミュニティグループ「オークランド日本人会」があるのをご存知ですか? その趣旨や活動内容について、2015年8月より会長を務める通称ハッチさんこと、橋本直江さんにお話を伺いました。
“世界で一番いい国”であるニュージーランドへ移住
オークランド周辺に暮らす家族または単身者の個人会員及び企業会員で構成されるオークランド日本人会。1989年に設立された歴史ある日本人コミュニティグループです。その会長を務める橋本直江さんは、ハッチさんの愛称で知られる聡明な女性。日本とアメリカで国際関係論を学んだ後、国連難民高等弁務官事務所に勤務し、1995年に家族とともにニュージーランドへやってきました。
「同じく国連で働き、60か国以上で仕事をしてきたイタリア人の夫から“ニュージーランドは世界で一番いい国だから移住しよう”と提案されたのです。私はそれまでニュージーランドに行ったことはなかったけれど、この人の言うことは間違いないだろうと信じてついてきました。私たちの勤務先は難民高等弁務官事務所でしたから、生活条件が厳しいところで働くことが多かったんです。それが子供の成長とともに段々難しくなってきたので、ニュージーランドで子育てをしようと決めました。
そして次女が当地で生まれ、二人の子供をこの国で育て、移住して20年以上が経ちましたが、彼が言った通りニュージーランドは素晴らしい国です。もちろん日本より遅れている部分はたくさんあります。でも人口わずか450万人で、経済の規模も小さいのにこれほどバランスが取れている国はそうそうないでしょう。政治も身近で、国民の意見を聞いてくれるシステムも確立されていますし、平等が徹底している国です。世界中から移民が集まる多民族国家で、多様性の問題に国ぐるみで取り組んでいるのはすごいことだと思います」
国際感覚あふれるハッチさんはニュージーランドでも難民支援の仕事に就き、地域のコミュニティに溶け込んで生活してきました。そして4年ほど前からオークランド日本人会の役員となり、2015年8月より会長としてオークランドの日本人社会をリードしています。
日本人会最大のイベント「ジャパンデー」
オークランドに暮らし、オークランド日本人会の存在は知っていても、実際にどのような活動をしている会なのかよくわからない人も少なくないかもしれません。このグループの基本的な活動目的は2つあるとハッチさんは話します。
「まず会員同士の親睦を深めること、次に日本とニュージーランド間の交流を促進すること、その2つが大きな柱です。そのなかで二水会(オークランド日本経済懇談会)や総領事館と協力し、日本語補習学校への支援を行っています。補習校の行事はほとんど日本人会のメンバーがサポートしていますね。そして日本人会の最も大きなイベントが年に1度行われるジャパンデー。こちらは会の総力を結集して取り組んでいるものです」
2016年4月の開催で15回目を迎えたジャパンデーは、当初コヒマラマでこぢんまりとしたコミュニティイベントとしてスタートしましたが、来場者数が増えて手狭になったことからグリーンレーンにあるイベントセンター「ASBショーグラウンド」、そして2015年からはクイーンズワーフへ会場を移し、今や約5万人が訪れる一大イベントに成長しました。それだけに準備にはかなりのエネルギーが必要とされるとハッチさんは言います。
「ASBショーグラウンドは交通の便があまりよくなかったので、クイーンズワーフになったことでより多くの方々にいらしていただけるようになりました。年々規模を拡大していますが、単に大きくなればいいというものではないので、コヒマラマ時代のような手作り感やコミュニティのお祭りという精神は根底に残したいですね。その上で皆さんに安全で楽しい1日を過ごしていただき、キウィの方々には日本の文化を知ってほしい、そういう気持ちでやっています。昨年と今年は4月でしたが、2017年は2月を予定しています。準備期間が短くなるのでプレッシャーもありますが、気候のいい夏にお祭りができるのが嬉しいです」
また、近年はクライストチャーチのカンタベリー日本人会との連携も深めており、お互いにそれぞれの都市で行われるジャパンデーを手伝っているそうです。
「私も勉強を兼ねてクライストチャーチのカンタベリージャパンデーに参加してきました。来場者数は2万人を超えているのでクライストチャーチのイベントとしては大きいですが、ちょっと羨ましくなるような、アットホームでちょうどいい規模のお祭りだと感じました。クライストチャーチから学んだこともあって、例えばコスプレ大会はカンタベリージャパンデーからアイディアをいただいたものです。それまでオークランドのジャパンデーは伝統文化にフォーカスしていましたが、キウィもほかのアジア諸国の人たちも日本のポップカルチャーが大好きですから、コスプレなどのオタク系イベントは盛り上がりますね」
生活に根差した活動に力を入れていきたい
フルタイムで働きながら日本人会の業務もこなし、多忙を極めるハッチさん。現在も次のジャパンデーの準備・運営が活動のかなりの部分を占めているそうですが、会長としての任期中に取り組みたい目標、そして5年~10年という長いスパンで見た場合の日本人会の理想像もお持ちだそうです。
「生活に根差した互助活動、会員同士がお互いに支えあえる日本人会にならなくてはいけないと感じています。そこではじめの一歩として生活部を設けました。具体的には小さなお子さんを抱えていらっしゃるファミリーやシニア世代への支援と声掛け活動を始めています。支援といっても具体的なことではないけれど、まずはネットワークを作ることが目的です。そしてニュージーランドへいらしたばかりで正確な情報が得られず、キウィが当たり前に受けているサービスをフル活用されていない方々も多いので、その橋渡しをしたい。将来的には雇用の促進や労働条件の改善、介護など暮らしに密着した問題を助け合って解決できる会になればと思います」
また、カンタベリー日本人会をはじめ、二水会、ジャパン・ニュージーランド・ソサエティ、また、中国、韓国、インドといったほかのグループとの交流は今後ますます密にしていきたいと考えているとか。
「ジャパン・ニュージーランド・ソサエティと協力して3.11の追悼式を行いました。オークランドと福岡市の姉妹都市締結30周年を記念した共同行事も計画中です」
何かと不安な面や戸惑うことも多い海外での暮らし。オークランド日本人会はそうしたさまざまな悩みを一緒に考えて行けるような会を目指し、活動を続けています。
橋本直江
はしもと・なおえ●愛媛県生まれ、東京都育ち。
慶応大学卒業後、カリフォルニアのサンディエゴ州立大学で政治学修士号を取得。外務省外郭団体でベトナムのボート・ピープルの定住促進支援活動に従事した後、国連難民高等弁務官事務局に勤務し、ジュネーブ、マレーシア、スーダン、バングラディッシュなどで難民の支援に携わる。
国連の同僚であるイタリア人男性と結婚し、長女を出産後、1995年に子育てにいい環境を求めてニュージーランドへ移住。ニュージーランドでは政府移民局の難民認定官を務め、現在はインベスト会社で働く。2015年8月、オークランド日本人会の会長に就任した。
- オークランド日本人会:
- http://jsa.org.nz