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料理学校「Sachie’s Kitchen」主宰 野村祥恵

野村祥恵

食を通してニュージーランドと日本の役に立つことが目標です

ニュージーランドでも人気が高く、すっかり日常に定着した感のある日本料理。その魅力を伝える第一人者として活躍中の日本人女性が、オークランドのパーネルで料理教室『Sachie’s Kitchen』を主宰する野村祥恵さんです。テレビ番組のホスト、料理レシピ本の出版、さらに数々の料理イベント出演など多方面でパワフルに活動の幅を広げる祥恵さんにお話を伺いました。

衝撃的な出来事をきっかけに料理教室を立ち上げる

世界でもすっかり人気料理のひとつとしてブランドを確立した和食。最近では外食だけではなく家庭で作る人も増え、より身近なものへと進化を遂げつつあります。ここニュージーランドでも和食は一般的ですが、まだどのように調理したらいいか知らない人も少なくありません。

そこに目をつけたのが愛知県出身の野村祥恵さんです。1990年代半ばに留学生としてこの国へ渡り、オークランド大学卒業後は旅行会社に就職。そしてスタンフォードプラザ・ホテルの営業職に転職し、キウィ社会でキャリアを重ねてきた彼女が自身の料理教室「Sachie’s Kitchen」を開いたのは2011年のことでした。

「ニュージーランド生まれの中国人の夫が自宅にお客さんを招いて、私が料理を作って皆で食べる機会がよくあったんです。その時に“この料理はどうやって作るの?”、“材料は何なの?”と聞かれることが多く、自分は普段から当たり前にやっていることだし、意外と簡単なのにニュージーランドの人たちには知られていないんだなと気づいたんです。そこにニーズがあると感じました」

子供の頃から共働きの両親を手伝い、毎日夕食の下準備をするなど料理の心得があった祥恵さん。ニュージーランドに来てからはプロのシェフとフラッティングを経験し、さまざまなレシピを教わってきたことも「Sachie’s Kitchen」を立ち上げるベースとなりました。

とはいえ、ホテルの営業部マネージャーとして忙しく働いていた祥恵さんは料理教室を主宰することなど全く考えていなかったそう。きっかけとなったのは2010年2月、同僚の友人が2人も同じ日に亡くなるという衝撃的な出来事だったといいます。

「おふたりとも別々の同僚の友人でしたが、どちらもまだ40代で、心臓意発作で突然亡くなったそうです。それを聞いた時、“人生はいつ終わるかわからないから好きなことをしよう”と強く思いました。もともと両親から“やりたいことをやりたいようにやって後悔のない人生を送りなさい”と言われていたことも大きかったですね」

祥恵さんはこの日、自宅に戻ると部屋に篭ってビジネスプランを思いつくままに書き上げ、夫に相談。元弁護士でニュージーランド市場のことも熟知している彼がマーケティング面などのサポートを担当し、バックアップしてくれたそうです。

家庭で気軽に作れることがコンセプト

日本料理のレッスンからスタートし、アジア料理全般にまで幅を広げた「Sachie’s Kitchen」。創設から5年目を迎える現在は、コーポレートの顧客を中心に大好評を博しています。そのコンセプトは「誰でも気軽に簡単に作れること」だと祥恵さんは話します。

「料理教室で習ったのに家庭で作れなかったら意味がないでしょう。だから例えばタイのバジルとか日本のシソなど専門業者を通さないと入手できない素材は使いません。地元のスーパーやアジア食材店、ファーマーズマーケットなどで誰でも買えるものだけを使い、なるべくシンプルでわかりやすいレシピを心がけています。生徒さんから“サチが教えてくれた料理を家で作ったよ”と言ってもらえることが喜びです」

これまでに教えた生徒数はのべ3万人を超え、ニュージーランドのフードビジネス界でも注目の人となった祥恵さん。2013年には彼女が共同プロデューサーとホストを務め、日本ロケを敢行した料理番組『Sachie’s Kitchen』も制作しました。

「2週間半、日本に帰ってロケをしたのですが、なかなかお目にかかれないような方々にたくさんお会いできてとても有意義な旅になりました。例えば大阪の鍛冶屋さんに素晴らしい包丁を作っていただいたり、400年も続く京都の老舗のお茶屋さんを訪ねたり。ニュージーランドで老舗といってもせいぜい20~30年ですから日本の歴史と文化は本当にすごいと実感しました。

加治屋さんは職人技で、一人前になるのに15年くらいはかかるそうです。今の若い人たちはそんなに長い修業に耐えられず、後継者探しが大変だと伺って、日本人としてどうにかしてこの伝統を後世に伝えられないものか、この番組がその一端を担えないかと責任を感じました」

夢や目標は書くと実現する

2014年には料理レシピ本も上梓し、次々と目標をクリアしている祥恵さんに成功ののヒントをうかがうと「パワー・オブ・ライティング」だと教えてくれました。料理教室を設立する前にビジネスプランを紙に書き上げるなど「書くこと」を大切にしているそうです。

「だいぶ前ですが、友人に“なりたい自分をイメージして、それを紙に書くと叶うんだよ“と言われたんです。最初はそんなこと信じていなかった。だって書いただけで夢が実現するなら誰でもやるじゃないですか。“そんな簡単なものじゃないんだよ、書いたけど叶わなかったじゃん”ということをその友人に言いたくて、教えてもらったとおりノートに1年後の自分の姿を思い浮かべ、希望を書いたんです。“1日1回、100回書きなさい”と言われたから面倒くさいけど書きました(笑)。

そうしたら1年後、本当にその時に書いた目標であった婚約する、結婚する、海の見える3ベッドルームのアパートメントに住む、新しい仕事を始める、ということがすべて叶ったんです。それからは“書く力”を全面的に活用しています」

祥恵さんの自宅の壁には4~5mの大きなブラックボードが設置されていて、その半分を彼女、もう半分を夫が使ってそれぞれのゴールセッティングを書いているといいます。今は何が書いてあるのかと尋ねると「まだ言えません」とのこと。しかし2020年開催の東京オリンピックに向けてブラックボードに書いた目標があり、それがジワジワと現実のものになりつつあるそうです。

「計画は10年を一単位として考えています。“Sachie’s Kitchen”をオープンしたのは31歳の時でしたから、41歳になったら何か別のことをしたい。ちょうどオリンピックもありますしね(笑)。私はニュージーランドと日本の両方に役に立つこと、つまり何か恩返しがしたいんです。

ニュージーランドでは全国の学校で給食制度を導入するのが目標。おいしくて栄養があることはもちろん、給食から学ぶことってたくさんあるじゃないですか。皆で一緒に楽しく食べるとか、協力して準備して後片付けをするとかね。給食制度はこの国に必要だと思っています。日本に対してのことはまだ言えませんけど、とりあえずはオリンピックをひとつの目標に捉えています」

常にさまざまなプロジェクトが進行中で多忙を極める祥恵さんですが、定期的に休みを取り、レシピ探しを兼ねて旅行に出かけることが楽しみだそう。今年は仕事でニュージーランド各地とオーストラリアを回った後、日本、タイ、シカゴへ行くことを予定だと話します。

パワー全開で前進し続ける祥恵さんが5年後のオリンピックの際にどんな夢を叶えているのか、その動向から目が離せそうにありません。

野村祥恵

のむら・さちえ●愛知県出身。

高校卒業後、オークランドの語学学校へ留学。オークランド大学に進学し、中国語と言語学を専攻。卒業後はニュージーランドの旅行会社に就職し、その後スタンフォードプラザ・ホテルの営業部マネージャーを務める。

2011年5月に料理教室「Sachie’s Kitchen」をオープン。2013年に日本でロケを行ったテレビ番組『Sachie’s Kitchen』を制作。ホストも務め、大好評を博した同番組はドイツ、オーストラリア、中国、香港など世界各地でも放映されている。2014年5月、料理レシピ本『Sachie’s Kitchen』を上梓。フードショーなどさまざまなイベントのデモンストレーターとしても活躍中。

公式サイト www.sachieskitchen.com