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第4回 バリスターの夢。ニュージーランドブリューワーズへの道

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第4回 バリスターの夢。ニュージーランドブリューワーズへの道

今年、バリスタになって5年めになります。16歳の時、今まで出会ったことのない信じられないコーヒーを見つけました。この出会いで、私はspecialty coffee(*1) が大好きになり、情熱を注ぐきっかけとなりました。初めてspecialty coffee について聞いた時は、カフェ業界は大きな会社に牛耳られていたので、低品質の豆を深煎りして使うことはとてもまれでした。

ではなぜ、私のような16歳の女子がspecialty coffee の世界に飛び込むことになったか?この位の年の子は誰もspecialty coffee を知らないし耳にもしませんでした。というのも、子どもにとってコーヒーは、お砂糖やシロップやチョコレートで味付けられたものでしたから。私も最初、コーヒーといえばモカのことでした。でもその信じられないコーヒーの味を知ってからは、まろやかなクリーミーミルク以外をコーヒーに入れて台無しにするようなことはなくなりました。

これが、私のバリスタへの道の始まりです。たった一杯のコーヒーが私の将来を変え、コーヒーと私の未来を結びつけました。

ニュージーランドブリューワーズに挑戦

毎年、ニュージーランドでは、この国のトップクラスのバリスタたちのためのイベントが行われます。これは彼らにとって国内のバリスタチャンピオンになれるかもしれない競技会です。多くの人は、“バリスタ”と聞くと、エスプレッソマシーンを使うと考えるでしょう。

けれど、このイベントではもっとたくさんのタイプのバリスタたちが競い合います。例えば、ブリュワーズカップ。これは、ソフトに焙煎したコーヒー(ソフトブリュワーズ(*2))、ラテ・アート選手権(とてもクリーミーなスチームミルクでラテ・アートを描くもので、そのミルクのクオリティーとラテ・アートの独創性と美しさが評価されます)、コーヒーの味利き(種類の違うコーヒーを5つテイスト、その中からひとつ違う味のものを時間内に正確に選んだ人がファイナルに進めます)

こうして4つのカテゴリーそれぞれについて、自分がこの国のチャンピオンであることを証明するため、バリスタたちはこのイベントにエントリーするわけです。今年、私は、ブリュワーズカップに参加することに決めました。ブリュワーズカップは、他の3つに比べると新しいイベントです。2013年に最初のコンペが行われ、私のコーヒーの師匠は、その最初の年から連続して出場していました。

実は彼こそが、私が16歳の時に出会った衝撃のコーヒーをいれた人であり、私にソフトに焙煎するコーヒーを教えてくれた人です。彼は所属するコーヒー会社のバリスタ兼焙煎家として、その競技会に出ていました。

私は毎年そこに行って、彼の動きを見ていました。でも今年、私は彼を応援する側から、彼と共に競う側になることを決心しました。競争相手になるといっても、私たちはお互い協力し合い、共に練習し、毎日のように競技会について話をしていました。

最初、私は競技会に参加するつもりは全くありませんでした。まだ若かったし、私の知識レベルでは到底競技会で競うことなどできないと思っていましたから。でも、私の師匠が、「競技会に出ることが、君のバリスタとしてのスキルを磨くことになり、自信にもつながるよ」という言葉をかけてくれました。

やる事は、いっぱい有るよ。

私は、競技会に向けてまずなにから取りかかって良いのか分かりませんでした。通常、競技会は、技術だけでなく、豆のクオリティーであったり、選んだその豆を使ってのパフォーマンスをどう審査員にアピールするかが問われます。

ブリュワーズカップは、3人の審査員がいますから、参加者は3杯のコーヒーをいれなければなりません。まずたくさんのコーヒー豆の中から、自分のパフォーマンスに合うものを選ぶことから始まります。そのために、たくさんの豆を買うことになりました。

あるものは木の実の風味がしたり、チョコレートの香りがしたり、酸味があったり、香草のようであったり、花の香りがしたり、灰のような香りのするものもあります。その中で、私は、花の香りがしてすっきりした味わいのするものを選びました。が、それはオーストラリアドルで1kg$70(5kg購入)もしました。学生の私には予算オーバーです。

最終的に、私はローストしたアーモンドの皮に黒砂糖とオレンジ、アプリコットの風味を足したような味わいのするブラジルコーヒーに決めました。豆が決まると、次はそれにあった水を選んだり、そのコーヒーにちょうどいい温度を探ったりと、ひとつひとつ自分自身でソフト焙煎の方法を確立していかなければなりませんでした。

毎日、毎晩、常に同じ味を出せるように練習を重ねました。どんなに朝早くから学校があっても、家を出る前に1、2 回は練習しようと思いました。仕事から帰ってからも、夜11時頃までは練習したいと思っていました。

緊張したら負けです。

観客と審査員に向けて声に出して説明すること、これは練習の中でもとても重要なことでした。私は師匠とともに、友達や同僚にお願いしてパフォーマンスを見てもらい、それに対して意見してもらうという、本番さながらの練習をしました。

競技会で最も恐れたのは、緊張してしまうことでした。緊張してしまうということは、最初から手が震えてしまったり、パフォーマンス中に言おうとしていたことをすっかり忘れてしまったり、とにかく自分の全てのパフォーマンスを台無しにする可能性がありました。緊張しないこと、そのためにいろんな機会を使ってたくさんの人の前で何度も練習をすることは大事なことでした。

初めて友達や同僚の前でした時は、本当に緊張しました。まるでロボットのような動きだったし、言うべきことも忘れてしまいました。でも、競技会の前まるまる一ヶ月間、毎回違う人の前で週2回練習を重ねた結果、私は緊張せずに動くことができ、言葉も忘れず全て口に出せるようになっていました。

最終的に、私は4位でした。挑戦をしてよかったと思います。なぜなら、前よりずっとコーヒー産業に興味が沸いたし、私の住む町にspecialty coffee  というものを広めることができましたから。今はまたニュージーランドブリュワーズカップに出たいなと思います。

*1)  specialty coffee: 豆のテースティングで100点満点中83点以上をマークする高品質なコーヒーのことです。さらにその豆の産地はどこか、どのようなファーマーがどのような環境で豆を育てたか(管理していたか)等々、コーヒーの品質や味にかかわる事がはっきり明示できる豆を、specialty coffeeといいます。

*2)  ソフトブリュワーズ: 基本的にはフィルターコーヒーのことを指します。「ソフト」とは、“プレッシャーをかけずに作るコーヒー”という意味です。エスプレッソマシーンは、90ぐらいのプレッシャーを使い、コーヒーを一杯作ります。ですが、フィルターコーヒー(ソフトブリュワーズ)は、お水のプレッシャー以外使いません。そのためソフトブリュワーズといいます。

COFFEE MANIA 2号

バリスター、ベイカー、女子大生
2001年家族でニュージーランドに移住
2010年家族でカフェをオープン
2014年カフェを改造し、Little Rascals Coffee shopに変更。
2015年NZ Brewers Cup 4位