若き新リーダーに期待と不安 掲げた政権公約実現できるか
今回の政権を言い表すと、1つは「市民生活重視政権」、もう1つは「公約実現未知数政権」だと思っています。政府は2020年までに最低時給を20ドルにすると言っています。労働者という意味での一般市民にとってはいいことかもしれませんが、産業界として見れば、今でも高い労賃がさらに上がることで商売が厳しくなるところも出てくるはずです。
また、政府は先日、現在合法的に18週まで認められている育児休暇を、来年7月から22週まで、2020年には26週までに引き延ばすと発表しました。ニュージーランドでも少子化は進んでいるので、子どもがほしい人たちからは歓迎されるでしょうが、経営側はスタッフの入れ替えなど、現場の対応を迫られます。今でさえ足りないと言われている人材の奪い合いが起こり、それは会社の経営にも影響を及ぼします。「市民生活重視」の政権は、もちろん市民から歓迎されますが、経営者の視点に立つと厳しい面もあります。
注目しているのは、交通インフラの整備を政府の主導でどこまでできるのかということです。オークランドの街の中心部と空港などとを結ぶ「ライトレール」(次世代型路面電車システム)を、向こう10年で50憶ドルをかけて整備すると言っていますが、具体的な財源は約束されていません。いいことは言っているけれど、果たしてそれを実現できるのかというと確固たる裏付けがない。「公約実現未知数政権」と言う理由はここにあります。
ニュージーランドの財政収支は2014年からこれまで黒字を維持しています。ライトレールもそうですが、1つの大きなプロジェクトを進める時に、当然そこにばかり集中してしまうと、他がおろそかになってしまいます。他の公共サービスも充実させながら黒字の財政収支をキープできるかというのは、今のところ不明です。
ただ、37歳という新首相の若さに期待する部分もあります。政治経験の少なさから、大事な国際外交の場面で上手く立ち回れるのかという不安はありますが、国政においてしがらみを感じず、リーダーシップを発揮してほしいと思います。若い人が国外に流出しがちなニュージーランドですが、住みやすい国、安全な国というだけでなく、足下の住宅価格問題などを解決し、ニュージーランド国内や海外の若い人たちが「定住したい」と思えるような国にしてほしいですし、ITやサービスといった若い人たちが活躍できる分野の雇用の創出などを若い首相に頑張ってほしいと考えています。
ニュージーランド三菱商事
- 世界的なエネルギー、資源、交通インフラ、生活産業の事業・投資や、大手コンビニ・「ローソン」を連結子会社として持つ総合商社「三菱商事」の現地法人。ニュージーランドでは機械、金属などの輸入、乳製品など食料品の輸出を行う。
- 清水さんはニュージーランド在住20年。