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ファンク・エステイト ヘッド・ブルワー 高木シゲオ

アイディアを形にして消費できるのが、ビール造りの面白さです。

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ウェリントンを中心に、ニュージーランド全体に広がりを見せるクラフトビールのムーブメント。ニュージーランド国内に数々のブリュワリーが存在しますが、その中で最も勢いのあるブランドのひとつといえるのが、2012年に20代前半の若者3人によって設立された「ファンクエステイト」。同ブランドのヘッドブルワーを務める日本人の高木シゲオさんにお話を伺いました。

大学進学のためにやってきたニュージーランドでクラフトビールにハマる

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 ニュージーランドのアルコールといえばワインがよく知られていますが、この国に滞在するとビールの人気もかなり高いことに気が付くはず。人口約450万人のニュージーランドには約60のブリュワリー(ビール醸造所)と200種類以上の銘柄があり、特に最近は小規模のブリュワリーがそれぞれこだわりを持って手がける地元密着型のクラフトビールが脚光を浴びています。

 その中でも最も勢いのあるブリュワリーのひとつに数えられるのが、2012年にウェリントンで設立された「ファンクエステイト」。当時24歳だった日本人の高木シゲオさんがジョーダン、ディランという2人の友人と一緒に立ち上げたビールブランドです。

 奈良県出身のシゲオさんは父親の仕事の都合で中学・高校時代をタイで過ごしました。現地のインターナショナルスクールを卒業し、大学に進学するためにニュージーランドへやってきたシゲオさん。将来ビジネスをしたいと考え、大学では経営を勉強。在学中にレストランやバーで働いたことがクラフトビールにハマるきっかけとなったといいます。

「2009年頃、僕がバーで働いていた時にお店のオーナーが変わり、仕事はそのまま続けたのですが、普通のバーからクラフトビールバーになったんです。それでクラフトビールと出合い、そのおいしさに目覚めました。ニュージーランドは販売しない分には個人がビールを合法的に作れるので、友人に誘われてビール造りも始め、すっかりハマってしまいました」

 ビール造りの機械を揃えて手がけた24種類の自作ビールをホームブリュー(自家製ビール)コンペティションに出品したところ、金メダルなど数々の賞を獲得。それを弾みにしてファンクエステイトが誕生したそうです。

「2012年にファンクエステイトを一緒に立ち上げたジョーダンとディランは僕の働いていたクラフトビールバーの常連で、ビール好きということで仲良くなり、ホームブリューですけどコラボビールを作ったりして遊んでいたんです。設立当時、僕は24歳で彼らは22歳でまだ学生でしたから、会社を興したといっても最初は趣味の延長でした」

オークランドで念願のブリュワリーを立ち上げる

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 2012年5月に最初のビールをリリースし、同年の商業用ビールコンペティションで銀メダルに輝くなど早くからその実力を発揮したファンクエステイト。自分たちのブリュワリーは持たず、ほかのブリュワリーの設備を使ってビールを作る、いわゆるファントムブリュワリーとして活動していました。

「僕はバーで働き続けていたし、ほかの2人もそれぞれ別の仕事を持ちながらファンクエステイトの活動を行っていたのですが2014年くらいから本腰を入れようと決めてブリュワリーを持つ方向でビジネスプランを立て始めました」

 当初は設立した地であり、“ニュージーランドのクラフトビールの首都”とも呼ばれるウェリントンでブリュワリーを立ち上げる予定でしたが、たまたまオークランドで現在の物件を見つけ、拠点を移したそうです。

「自分たちのブリュワリーがあるこの場所は、それ以前もブリュワリーだったんです。それが売りに出されていると聞いてオークランドに移ることを決めました。ゼロからブリュワリーを作るとなると、ビールの発酵タンクをオーダーするなどいろいろな作業があって稼働するまでに半年はかかるんですよ。その点、ここなら前の設備を有効活用できるので時間が節約できます」

 さらに今後の流通や世界展開を考慮し、オークランドのほうが有利だという結論に達したとか。

「クラフトビール自体はウェリントンのほうが盛んで、どんな小さなお店でもクラフトビールの扱いがあり、生活に根差し、文化として成熟している感じがします。オークランドではまだそこまで浸透していないけど、人口が多い分、消費量だけでいえばウェリントンより断然上です。今はオーストラリアのメルボルンに定期的に輸出していて、最近、日本でも試しに少し売って、近々台湾へも輸出する予定なので、ニュージーランドの玄関口であるオークランドへ移るのは便利だと思いました」

生産量を上げて単価を下げるのが目標

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 2015年12月、オークランドで本格始動したファンクエステイト。3人で忙しく働き、今年も商業用ビールのコンペティションに参加する予定だそうです。これまでも数々の賞を受賞してきましたが、自身のブリュワリーで100%自分たちでハンドリングするのは今回が初めて。どのような違いが生まれるのか、期待が高まります。

 また、最近はロゴのデザインを少しシンプルなものに修正し、オークランドに移った機会にボトルから缶へ容器を変更しました。ボトルが主流のクラフトビール界では新しい試みですが、缶のほうが鮮度を保ちやすいこと、そしてファンクエステイトのアートでポップなデザインをより活かせるためです。

「クラフトビールのブームが生まれたアメリカではすでに缶が一般的になっています。パッケージも、ボトルはラベルだけですが缶は容器全体を使えるのでいろいろ遊べて、デザインの幅が広がるので面白いです」

 今後は生産産量を増やし、スタッフも増員して単価を下げることが目標とか。

「現在は1缶NZ$4~5で販売していて、クラフトビールとしては普通の値段ですけど一般的なビールとしては高いですよね。でも利益率の問題でこれ以上下げられないし、コストカットするといっても材料費を削ると質が低下するから、生産量を増やして解消したいと考えています。6缶パックNZ$20くらいで提供できたらいいですね」

 ファンクエステイトではピルスナーや酸味のあるサワーエール、ペールエール、IPA、スタウトなどさまざまな種類を生産していますが、これからも新しいアイディアを取り入れてよりおいしいビール造りを目指したいそうです。若い才能と新感覚あふれるニュージーランド発のクラフトビールブランドに今後も要注目です。

高木シゲオ

たかぎ・しげお●奈良県生まれ。

父親の仕事の関係で中学・高校時代をタイで過ごす。大学進学のためニュージーランドへ渡り、経営を学ぶ。大学在学中にレストランやバーで働き、クラフトビールの魅力に目覚める。自宅でビール造りを始め、ホームブルワーのコンペティションで高い評価を受けたことをきっかけに、2012年、24歳でブルワー仲間のDylan、Jordanとともにウェリントンでビールブランド「ファンクエステイト」を設立。同年、ニュージーランドで行われた商業用ビールのコンペティション「New Zealand Brews Guild Awards」で銀賞を獲得。その後も毎年、金・銀・銅の各賞に輝く。

自身の工場を持たないファントムブリュワリーとして活動していたが、2015年12月、オークランドに拠点を移し、念願のブリュワリー(ビール醸造所)を立ち上げた。

公式サイト:
www.funkestate.com