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第11回 優れた集団を創る必須条件は優れたリーダーを持つこと - 小学校から行われるNZのリーダーシップ教育

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オールブラックスのキャプテンであったリッチー・マッコウ選手のすばらしいリーダーシップは、小学生の頃からのニュージーランドでの学校教育に関係があるのかもしれません。

優れたリーダーになるための教育を小学校から受ける。

2015年ラグビーワールドカップで、史上初の二大会連続優勝したオールブラックス。そのオールブラックスのキャプテンであったリッチー・マッコウ選手の試合内外でのリーダーシップはすばらしいと言われていました。伝説のキャプテン=リッチーは、ニュージーランドでどんな教育を受けて、リーダーになっていったのでしょう。

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ニュージーランドでは、個人の能力を評価する際に「リーダーシップがとれるかどうか」ということを重視しています。
小学校の頃から、リーダーとは何か、優れたリーダーになるのはどのようにしたら良いのか、というリーダーシップに関する教育を受けます。

ニュージーランドの多くの小学校でも、最上級生の中からスチューデントリーダーを選出しています。

小学校のスクールリーダー、アンバサダーとは?

ロトルアにあるMalfroy School(マルフロイスクール)という小学校にも、Ambassador(アンバサダー)と呼ばれるスチューデントリーダーたちがいます。

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アンバサダーを選出するために、最終学年のYear6のクラスの何人かの子どもたちが、担任の先生に推薦をうけた後、校長先生と一対一の面接を行います。
校長先生は以下のような質問をアンバサダー候補者にします。

「あなたは、この学校のどんなところが好きですか?」
「では、その好きなところをもっと増やして、さらに学校を良くするにはどうしたらいいですか?」
「一つしかないボールを取り合って喧嘩をしている下級生がいました。あなたは彼らに何と言って、何をしますか?」

質問に対して子どもたちはこのように答えます。

「みんな仲が良いし、スポーツ競技も強いのでこの学校が好きです。」
「学校のロゴにもあるサンシャインのように、いつもみんながスマイルしていられるような学校がいいと思います。」
「ハローとかサンキューとかソーリーのような言葉のマナーを徹底すれば、もっと良い学校になると思います。」
「1つしかないボールを取り合って小さい子が喧嘩していたら、喧嘩をやめて一緒にそのボールで遊べばいいよ、と言います。そして、自分も一緒にボールで遊んであげます。」
自分の考えを持ち、その考えを言葉にできるかどうかが、面接で判断されます。

小学校でのリーダーシップ教育

このように、面接を経て、最終的に校長先生が決定した子どもたちがアンバサダーとして選出されます。

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選ばれた子どもは、「アンバサダー」というバッジを胸につけます。アンバサダーたちは、定期的に校長先生とミーティングを行い、意見交換を行います。こうして、幼いながらもリーダーとしての自覚と責任をだんだん身につけていきます。

マルフロイ小学校のアンバサダーのJob(仕事)とRole(役割)は以下のようなことです。
- 校長先生との定期的なミーティング
- 学校にビジターがきたときには、学校を案内する。
- スクールイベントの際、先生たちと共にオーガナイズをする。
- コミュニティイベントに学校の児童代表として出席する。
- 他の子供たちのRole Model(ロールモデル:役割お手本)となる。
- 定期的に行われる学校集会の準備をする。

また、アンバサダー以外にも、図書館司書、学校受付、朝の横断歩道ロードパトロールなど、子どもたちが小学校で何かの役割を担うことはよくあります。子どもたちは、そういう役割を与えられることが、とてもうれしく誇らしく、責任を果たそうとがんばります。

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写真は、マルフロイ小学校の「本日の受付担当」のルイーズ君です。

高校でのリーダーシップ教育

また、高校では、生徒が評価を受ける際に、学力やスポーツなどその他の能力などと同等に、リーダーシップがとれるかどうかということが、評価の対象になります。スチューデントリーダーたちは、定期的に校長先生とミーティングを持ち、BOT(ボードオブトラスティ=学校運営に携わるPTA組織のようなもの)にもかかわっていきます。

学校に優れたスチューデントリーダーがいると、先生と保護者だけで行うよりも、学校運営がよりスムーズになり、学校が発展していく要因になるのです。
また、リーダーシップ教育は、生徒個人の人間形成にもおおいに役に立ちます。スクールリーダーの役割を担うことで、自分の考えや行動に自信と責任を持つようになり、人とうまくやっていく力がつき、セルフマネージメントのスキルが身についていくのだそうです。

ロトルアウェスタンハイツハイスクールのリーダーたち

ロトルアに、Western Height Hign School(ウェスタンハイツハイスクール)という、生徒数約1500人の共学の高校があります。

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このウェスタンハイツハイスクールのスクールリーダーたちの何人かと話す機会がありました。

ニュージーランドの高校では、Prefect (プリフェクト)と呼ばれる生徒会(執行委員会)のようなものがあります。
このウェスタンハイツハイスクールでも、Year13(日本でいう高校3年生)の中から、プリフェクトが選出されています。

ヘッドボーイ、ヘッドガールになることの名誉

そのプリフェクトの中から、男女各1名のHead Prefect(ヘッド プリフェクト)が選ばれます。

この二人が、その年のHead Boy(ヘッドボーイ)とHead Girl(ヘッドガール)です。

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2016年ウェスタンハイツハイスクールのヘッドボーイKuratea(クラティア)君と、ヘッドガールBailey(ベイリー)さんです。

ニュージーランドの高校のヘッドボーイやヘッドガールは、日本でいう生徒会長ですが、リーダーとして「学校を代表している」という意味合いが、日本の生徒会長よりも強いのではないかと思います。
ニュージーランドの高校のヘッドボーイ、ヘッドガールに選ばれた生徒は、ことあるごとにみんなの前でスピーチを行い、校内外のさまざまなイベントにも学校代表として出席します。その年のヘッドボーイ、ヘッドガールは学校のボードなどに名前が刻まれ、ずっと記録が残ります。
高校のヘッドボーイ、ヘッドガールに選ばれることは、またとない機会であり、本人にとっても家族にとっても、大変名誉なことです。

リーダーとして選ばれた生徒たちに対し、「優れたリーダーになるために。」「リーダーの役割」などの講義をする学校もあります。

ハリーポッターにみる高校のハウスシステム

また、多くの高校には、House(ハウス)という生徒たちのコミュニティシステムがあります。

ハウスのシステムは、簡単にいうと学校全体の縦割りグループです。
(ハリーポッターをご存知の方は、ハウスシステムをよく理解できると思います。映画で、ハリーポッターが、ほうきに乗って戦っていた、あれがハウス対抗戦です。)
高校の生徒全員が、入学時にどれかひとつのハウスに振り分けられ、基本的には卒業まで同じハウスに所属します。
ハウス内でさらに小さなグループをつくり、そのグループがホームクラスとなり、毎朝のホームルームもそのホームクラスで行います。

一つのハウスに下級生から最上級生までのの生徒が所属していますので、上級生が下級生のモデとなってサポートしていくシステムです。多くの場合、ハウスカラーと呼ばれる、それぞれのハウスを象徴する色があります。

ハウス単位で、定期的にミーティングを行ったり、スポーツ大会などでは、それぞれのハウスカラーをまとって、ハウス対抗で競技に参加したり応援したりします。
ウェスタンハイツハイスクールにも5つのハウスがあり、それぞれ赤・黄・紫・緑・青のハウスカラーに象徴されています。

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ウェスタンハイツハイスクールのWaiporoporo(ワイポロポロ:紫)とKowhai(コウファイ:黄)のハウス対抗応援団の様子です。

ハウスにもリーダーがいる

ハウスは、入学から卒業までずっと同じメンバーなので、どんどん仲良くなり結束も強くなり、だんだんに家族のようになっていくそうです。
そして、それぞれのハウスにも、ハウスキャプテン、ヘッドオブハウスなどと呼ばれる、「ハウスリーダー」が選出されています。
ハウスリーダーたちは、定期的にミーティングをし、ハウス内に問題がないか、より良いハウスを目指すにはどうしたらよいか、などを話し合います。

魅力的なウェスタンハイツハイスクールのリーダーたち

ウェスタンハイツハイスクールの2016年のリーダーたちの5人にお会いしました。

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Anna(アナ)、Bailey(ベイリー)、Tegan(ティーガン)、Shuichi(シュウイチ)、Kuratea(クラティア)、Daniel(ダニエル)です。2016年のヘッドボーイ、ヘッドガールのほか、プリフェクト、ハウスキャプテンなどです。

彼らに、学校やハウスのリーダーとして重要なこと、またリーダーとしての楽しみは何ですか、と聞いてみました。
彼らはこのように言いました。

「私は、Miro(マイロ)のハウスに所属しています。私が、入学してまもなく、まだ緊張している頃に、ハウスの上級生がホームルームでいろいろと話しかけてくれました。それがとてもうれしかった。だから、私も下級生には、積極的に話かけるようにしています。」

「僕のハウスはPounamu(ポウナム)です。下級生にはさぼらずにちゃんと授業に出たほうがいいよ、とアドバイスすることもあります。僕も同じアドバイスをうけ、いやな授業にも出た記憶があります。(笑)」

「ハウスで、いろんな子と話すのはとても楽しい。ハウス内はみんなが仲良しで、まるで大きなファミリーのようです。ハウスで楽しいことは、ことは、たくさんの子と出会えて話ができることです。」

「ハウスのリーダーとして、同じハウス内の下級生のお手本にならないといけないと思っています。」

リーダーになるための条件

これらのスクールリーダーとして選出される生徒は、学業が優秀でないといけないのはもちろんですが、学業以外にも何か一つ秀でたものがないといけません。それは、スポーツであったり、アート、マオリパフォーマンス、ドラマ、音楽などどんな分野でもかまいません。

さらに、その二つに加え、リーダーの役割を理解し、リーダーシップがとれることがリーダーになるための必須条件です。

ちなみに、ウェスタンハイツハイスクールの今年のヘッドボーイであるKuratea(クラティア)君は、学業が優秀なのはもちろんですが、バレーボールの名選手でもあります。ウェスタンハイツハイスクールは、今年男子バレーボール部が強く、ニュージーランド全国大会出場を決めています。Kuratea(クラティア)君は、そのバレーボール部でもリーダーです。

その全国大会に出場するための遠征費用を稼ぐため、バレーボール部の生徒たちが、学内で楽しいアルバイトをしていました。
先生たちの車を、1台5ドルで洗車するのです。

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わあわあと笑いながら楽しそうに、車を洗っています。

大人になっても生かされるリーダーシップ教育

日本の教育を受けて育った私の想像以上に、ニュージーランドではスクールリーダーになることは名誉あることのようです。

次年度のヘッドボーイ、ヘッドガール、ハウスキャプテンが誰なのかが発表になるのは、毎年、年度末にあるPrize Giving(プライズギビング=成績優秀者表彰式)です。
リーダーに選ばれた生徒の名前が呼ばれると、わあっと歓声があがり大きな拍手が巻き起こります。名前を呼ばれた生徒は感極まって涙する子もいます。
いつもそれはとても感動的な瞬間です。

ニュージーランドでは、小学校の頃から、リーダーシップ教育をうけます。
中学校や高校では、リーダーを中心として、チームの一員としてどう動くとチーム全体がよくなるのか、というチームビルディング学習も行います。

これらのリーダーシップ教育が、大人になってからも生かされているように思います。

参考URL:

Western Heights High School
whhs.school.nz
上野清子(Seiko Ueno)
新婚旅行でNZに魅せられ、1997年に夫婦でロトルアに移住。
ジュニアからオールブラックスまで、NZラグビーが大好き。
娘一人。
留学エージェント「キックオフNZ」マネージャー
モンテッソーリ小学校Trust Chairperson、通訳/翻訳。

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