ニュージーランドではソフトボールも試合が終われば“ノーサイド”です。
ニュージーランドの球技といえば国技であるラグビーが有名。しかし、実はソフトボールも盛んで、男子は世界ランキング1位に輝くほどの強豪国です。シーズンは南半球の夏(9~3月)で、3月下旬には全国のチームが参戦するナショナルリーグが行われます。オークランドの女子ソフトボールチームに所属し、今年で6シーズン目を迎えた日本人プロ選手の合田智子さんにお話を伺いました。
実業団、プロ野球を経て海外へ
野球を始めたのは小学3年生。幼馴染の男の子とよくキャッチボールをしていて、その影響で地元の少年野球チームでプレーするようになりました。中学・高校はソフトボールをして、卒業後は実業団のチームに入団。21歳で一度引退して競技から離れ、しばらくはエアロビクスやピラティスなどのインストラクターをしていました。
もう一度プレーヤーに戻ることを決めたのは、女子プロ野球の発足がきっかけです。入団テストに合格して2年ほどプロで活動しましたが、思うところあって退団。今度は完全に引退するつもりでしたが、コーチなど周りの人に「今辞めたらもったいない」と止められ、社会人野球の名門チーム、日本生命の練習に加わることになりました。
ここでの経験が、その後の人生を変えたと言えます。日本生命のコーチと選手たちの野球に対する姿勢やモチベーションの高さ、知識の深さに驚き、これまで見てきた野球とは全く違う、新しい扉が開いたように感じました。4か月間、毎日通って、キャンプにも参加して、朝から晩まで練習するので身体的にはきついはずなのですが、全然苦になりませんでした。自分の野球のレベルも一気に上がり、ちょうどそのタイミングでアメリカの野球アカデミーから誘われて渡米。アメリカの男子チームに飛び込んで、また世界が広がりました。人脈も広がり、その後はオーストラリア、オランダ、韓国、台湾などあちこちでプレーを続けています。
人が良くて居心地のいいニュージーランド
ニュージーランドは6シーズン目で、オークランドに到着するたびに「ああ、帰ってきた」とホッとします。世界各地でプレーしましたが、ニュージーランドとは波長が合うのか、とても居心地がいいですね。ホストファミリーも毎回同じところなので、すっかり家族のように仲よくしています。
国によって練習や試合の雰囲気は全然違います。例えばオランダは日本と同じようにキッチリしていますが、ニュージーランドはアイランド気質なのかのんびりですね。試合の時も、ほかの国だとチーム同士で結構バチバチするんですが、ニュージーランドの場合、真剣にプレーしても試合が終わった瞬間にお互いハグして、さっきまで戦っていた相手なのに「トモ、あのプレーよかったよ」と褒めてくれたり、ジョークを飛ばしてきたり。人が良くて、常にウエルカムなムードで、そのメリハリが好きですね。コーヒーも美味しいし、いずれこちらに永住したいと思うほど気に入っています。
その反面、「もったいないな」と感じることもあります。ニュージーランドのソフトボールは、男子は強いのですが、女子はオーストラリアが強豪すぎてなかなか勝てない。オセアニアは狭き門で、オーストラリアに勝たないとオリンピックとかの国際大会に出られないんですよ。だからランキングも上がりません。ニュージーランドの人たちはマオリの血が入っているから体が大きく、オーストラリアに勝つポテンシャルは持っています。ただ、おっとりしていてなかなか自分を律して厳しくできない。選手一人ひとりが食事やトレーニングも含めて自己管理をしっかりできるようになれば、チームがもっと強くなるのにと思います。
選手と世界のチームをつなぐ仕事がしたい
3月末でシーズンが終わったら、また別の国でプレーすると思います。オランダのチームから声がかかっているのですが、プエルトリコやメキシコでプレーしたい気持ちもあって考え中です。それに今年はオリンピック・イヤーなので、せっかく日本で開催するのにその間、海外にいたらもったいないですよね。もし日本にいるなら、今シーズンは私が以前所属していたチームにチェコ人とアメリカ人の選手が入ることになったので、そのサポートをするかもしれません。
将来的にはそろそろ引退も視野に入れないといけない年齢になったので、プレーヤーではなく何かができるのかを思案しています。これまでも海外の選手を日本に送ったり、その逆もしているので、スポーツ留学支援のような仕事に興味があります。一般的にスポーツ留学は高額ですが、私はこれまでいろいろな国でプレーしてつながりを持っているので、そんなにお金をかけなくても海外でスポーツができることを若い選手たちに広めたいですね。日本の選手が海外に、海外の選手が日本に行きやすい環境やシステムを作る、サイトや会社を立ち上げたいと考えています。
合田智子
- ごうだ・ともこ●1980年7月26日埼玉県生まれ、茨城県育ち。
- 小学3年生の頃、地元の少年野球チームに入団。中学からソフトボールに転向し、高校卒業後、岩手東芝エレクトロニクスに入社し、実業団チームで活躍。21歳で同チームを引退し、スポーツインストラクターとなる。
- 2009年に日本女子プロ野球機構の第1回合同トライアルを受験して合格、京都アストドリームスへ加入。2011年末に退団し、2012年1月より4か月間、社会人名門の日本生命野球部でトレーニングする。その後はアメリカ、オーストラリア、オランダ、韓国、台湾、ドミニカ共和国など世界各地のチームに所属。2013年のワールドシリーズ(USA)でシルバーメダルを獲得するなど数々の輝かしい戦歴を重ねている。
- ニュージーランドの女子ソフトボールチームには5年前から参加。9月~3月のシーズン中、オークランドを拠点にプレーしている。
- 公式ウェブサイト
- http://tomoko-goda.spo-sta.com/